2004年9月19日日曜日

示唆に富む一節 ―戦争における「人殺し」の心理学―



戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)


ちょっとここだけ抜き出すと分かりにくいかもしれないのですが、著者の主張は、「性」に対しても「死」に対しても、昔の生活様式にあっては隠蔽されたものではなく、常に目の前にある日常的な物だったと。しかし少し前から、これらが人の目に触れないように行われるようになってしまい、現代の人達は事実ではない変な妄想をこれらに対して持つようになってしまったのではないかと。



性と死は、生き物にとって必須で自然な生の一部である。性のない社会は一世代で消え失せてしまうだろうが、殺生のない社会もその点は同じである。


(中略)


性や死や殺生といったごく自然な現象が隠されてしまうと、社会はその自然な現象を否定し歪曲するという反応を起こすようだ。現代では、科学技術の進歩によって現実の一側面が人の目に触れにくくなっている。そのために、逃げようとしている対象そのものが奇怪な夢となってとり憑いて離れない、現代社会はそのような症状を呈しているのではないだろうか。否認は妄想の一種であり、妄想は夢を生む。妄想の魅力的な罠に人々が深くはまり込んでゆくと、社会にとって危険な悪夢が生まれる危険性も増大する。


今日、私達は性の抑圧という悪夢から覚めたばかりだ。それなのに、今度は新たな否認の夢、すなわち暴力と恐怖の否認に陥りかけている。






0 件のコメント:

コメントを投稿