2010年2月21日日曜日

精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本 / 大熊 一夫



精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本


この本はすごかった。


精神病院ってなんだかヘンだなと思ってた。なんで入院したら出てこられないんだろう、なんで治療するのに拘束したり電気ショック与えたりするんだろう。退院してもまた再発して入院、何カ月も何年も。薬を飲んでものすごく太ったり無気力になったり。全然治ってないじゃんって。最悪自殺したりするし。医療行為なのかなあ、って。


一方この本は、イタリアでは精神病院を、犯罪を犯し再犯の可能性のある人が入る、司法管轄の司法精神病院(1000床くらい)を残して全廃してしまったと言う。全国津々浦々に精神保健センターを設け、基本的には医療チームが24時間対応で町中に住む患者を訪問して医療活動を行う、と。


すごいじゃん。そんなことが可能なんだ。精神病院に入っている患者は人間的な生を送っているとはいえない、危険な狂気は持続しない、狂気を持ったままでも社会生活を送れるはずだ、と考えた人たちが何十年かかかってイタリアの精神病院を閉じてしまった。結果、犯罪率は上がらず、医療コストは劇的に(6割だったっけかな)下がった。精神病者は社会に出ると有害だから閉じ込めるべきだ、という日本での常識(?)を1つの国家レベルでひっくり返してしまった。刑務所のような病院で一生暮らすのと、医療者と一緒にアパートに住むのと、どっちが精神状態の改善にはよいのかってこと。また、入院していた人が数%でも自分の力で社会で生きていくんだもの、コストは下がるんだね。


狂気と社会生活の共存、ってのがこの本から受け取った最大のメッセージ。精神疾患の原因はその人の社会生活にある。だからその人を社会生活から切り離して治療を行うのではなく、その社会生活にとどまり、その中に患者と一緒に医療者が踏み込んで解決を行わない限り改善はありえない、という考え方って私にはすごく新鮮だったし、その通りだと思った。日本ではそれが主流ではないと筆者同様私は思うけど、この本の後ろの方にはそれを日本で実践している例がいくつか出てきて希望が持てる。


狂気と社会生活の共存、この「狂気」の部分を「老い」とか「子育て」に置き換えると今の日本の問題、またそれの解決法が見えるような気がする。





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